「もう、やってますかね?」
暖簾を吊した直後に入ったため客は我々2人のみ。
さっそくに酒を頼もうとすると、
「ヒレ酒」
の文字。
2人してそれにする。
香ばしいフグのヒレ酒をふぅふぅと呑みつつ、馬肉ユッケをつまむ。
鍋が出てくる。
鴨鍋だ。
冬にはこれが堪えられぬ。
1人前とは思えない盛り皿には、赤々とした鴨肉がのっている。
脇には、脂身がある。
店の女将さんの言うことに従い、白菜やしめじなどの野菜を入れてゆく。
次に脂身をほうり込む。
じんわりと脂が浮いてくる様は、なんともいえず食欲を刺激する。
酒も進む。
話も進む。
松本が急に、
「先輩、すまねぇ」
と涙している。
(目に塵でも入ったのかしらん)
眺めつつ、酒をやる。
と、我々をはさみ前後の席にいる子供2人がお互いに気になるのかふわふわとしている。
盗み聞きするわけではないが、3歳と4歳らしい。
荷物をどけ、場所を作ってやる。
ひょこひょことやってきて、机になにか広げてやっている。
その様をみて、店全体が和む。
さて、鍋をうどんと雑炊で締め、会計が7000円である。
安い。
本当の「安い」とはこういうことを言うのだろう。
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